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29話 彼女の無実を示すため

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-08-16 18:03:08

「うーん……どこから調べれば……」

 シュリンさんを助けてみせると啖呵を切ったものの、正直言ってどこから手をつけていいのか分からない。調査するべき場所はたくさんあるというのに、時間はあまりない。

(とにかくまずは遺体があったっていう現場まで行ってみますか……)

 流石に現場には何かしら情報があると考え、近くの従者に事情を説明しそこまで案内してもらう。

「これは……」

 想像はしていたが、現場はかなり凄惨なことになっていた。遺体はまだ回収されておらず、衛兵が検死している。

 肝心の遺体は地面に横たわっており、地面の草は血を吸っている。

「ロンド……」

 遺体の側には知り合いの衛兵が居て、詳しく事情を伺う。

 遺体が発見されたのは今日の深夜2時。雨の降る中犯行が行われたそうで、背後から心臓を刃物で一突きされたらしい。

「やはり辻斬りの手口ですね……」

「そうだな。心臓を狙って寸分のズレもなく一撃で……」

「それともう一つ。何故シュリンさんが疑われているのですか?」

「犯行が行われた時刻に屋敷に入ってきたらしい。それと被害者が殺される直前に彼女が辻斬りに違いないとミラモに証言したことから現状一番怪しいと睨んでいる」

「でも彼女がそんなことするわけ……」

「先入観は捨てろ。普段の態度なんていくらでも取り繕える……事件の調査をしたいならそれくらい弁えておけ」

 悔しいが言い返せない。状況から考えるとシュリンさんは僕目線でも怪しい。でもだからこそ僕だけでも味方でいないといけない。

(僕はシュリンさんを信じる……絶対に無罪の証拠を見つけてやる……!!)

 遺体を軽く調べるが特にこれといった情報はない。今まで通り、過去の辻斬りの被害者となんら差異のないものだ。

「ん? この花壇……」

 少し離れた場所にある花壇に目が留まる。何か重たいものに潰されたかのように花がひしゃげている。

「上は……あの部屋か」

 ちょうど真上の四階の部屋の窓が開かれている。そこから飛び降りたのだろう。あの高さ本来なら大怪我しそうだが、近くには背の高い木もある。上手く身体をぶつければ軽症に抑えることは可能だろう。

(飛び降りたのが被害者なら……あの部屋で襲われた……?)

 庭から現場にかけては特段目立った情報はなかった。一旦屋敷に入って窓が開いていた部屋に行く。

「あ、すみません……」

「あぁロンドさんです
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